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ブランディングとは何か?へのアーカーの答え【理論編】|デービッド・A・アーカー『ブランド論』

By KANTA YAMAGATA12 min read

日々、莫大な情報が生み出され続ける現代では、ブランディングの重要性がかつてないほど高まっています。しかし、ブランディングをただ単に表面をお洒落に飾ることとする誤解も見受けられます。そこで今回は、ブランドマネージャーだけでなく、経営学的なブランディングを学んだことがない方でもわかりやすいように、モダンブランディングの父と呼ばれるカリフォルニア大学バークレー校のデービッド・A・アーカー(David A. Aaker)教授の『ブランド論(Aaker on Branding)2014』をご紹介します。本記事を読むことで、本当のブランディングの考え方の基礎が身につきます。

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ブランドとは何か

ブランディングを理解するためには、まず「ブランドとは何か」という問いに答える必要があります。一体、ブランドとはなんでしょうか?この問いに対するアーカーの答えはいささか地味で長いですが、この後を理解するのに重要な前提知識ですのでお付き合いください。

アーカーはブランドを2つの観点から説明しています。1つ目はマーケティング的観点で、ブランドは組織から顧客への約束、つまりそのブランドが表すものが機能面だけでなく、情緒面や自己表現、人間関係においても役立つという約束だといいます。さらに、ブランドは、顧客がそのブランドに触れるたびに生まれる体験をもとにして、積み重なり変化していく顧客との関係でもあると説明しています。

2つ目はマネジメント的観点で、ブランドは未来の成功ための足場であり、継続的な価値を生み出す資産であると主張します。「ブランドは資産である」という発想は1980年代後半に生まれた画期的な考え方で、それ以前はブランド構築は広報宣伝チームに任せて構わない短期的な売上を伸ばすための戦術、名前やロゴは商品のおまけに過ぎませんでした。しかし、このパラダイムシフト以降、ブランド構築は戦略の決定要因、経営資産へと昇格したのです1。アーカーは、1991年に出版した『ブランド・エクイティ戦略(Managing Brand Equity)』によってそれをブランドエクイティという概念にまとめ上げ、このパラダイムシフトに多大な貢献をしたため、現在もブランディングに最も影響力を持つ人物の1人となっているのです。

このブランドエクイティはブランディングにおいて最も重要な概念でありながら、実は本書では何の説明もないまま使われています。おそらく過去の著作を参照してもらうことがアーカーのブランディングをコンパクトにまとめるうえで前提とせざるを得なかったのでしょう。アーカーは先の『ブランド・エクイティ戦略』で、ブランドエクイティを次のように定義しています。

ブランドの名前やシンボルと結びついたブランドの資産(あるいは負債)の集合であり、製品やサービスの価値を増大させるもの。

そして、ブランドエクイティを、5つの要素に分解して説明していますが、アーカーが副会長を務めるブランディングコンサルティングファームPROPHETの記事 What Is Brand Equity?(2013) ではよりシンプルに3つに分解しているのでこちらをご紹介します。

  • ブランド認知(brand awareness/ visibility)
  • ブランド連想(brand associations)
  • ブランドロイヤルティ(brand loyalty)

ブランド認知は、そのブランドがどれだけ知られているかという資産です。ブランド連想については後ほど解説します。ブランドロイヤルティは、そのブランドがどれだけ愛着を持たれているかという資産です2

以上が「ブランドとは何か」に対するアーカーの答えですが、現実には「資産としてのブランド」というアイデアを実行に移せている企業は少ないと警鐘を鳴らしています。1980年代後半にパラダイムシフトが起こったといってもそれは欧米の話で、日本ではブランディングを未だ広報宣伝部の業務と認識している企業も多いかと思いますので、理由と対策を解説していきます。

まず、資産としてのブランドが実行に移されにくい理由としてアーカーは次の3つをあげています。

  • 短期的な財務業績の力が圧倒的に強いから
  • ブランド構築が至難の業だから
  • マーケティング機能を社員や仕組みや企業文化という形で持たない企業もあるから

最初の2点はどの企業にも当てはまるのではないかと思います。1980年以前のパラダイムでは、ブランディングは戦術であり、短期的に売上が伸びるか、それとも何も起きないか白黒はっきりしていました。ですが以降のブランディングでは、ブランド資産の構築には何年もの継続的な強化策が必要であり、短期的にはブランド構築のせいで利益が落ち込むことすらあります。これら強力な理由に抗い、上司やクライアントにブランド構築に投資してもらうためには、ブランドの資産価値を証明することが重要になります。アーカーは次の4つの証明方法をあげています。その内、3点を紹介します3

  • ケーススタディ
  • ブランドバリュエーション
  • ブランドエクイティ効果の定量分析

1つ目は、ケーススタディです。例としては「創造的で完璧主義」といったイメージを作り上げ莫大な利益を得るAppleや、「究極のドライビングマシーン」というコピーを浸透させたBMWなどが例に挙げられています4

Products designed by Apple.
https://www.macrumors.com/guide/upcoming-apple-products/

ネガティブな例として、シュリッツ(Schlitz)が紹介されています。シュリッツは1970年代、バドワイザーに次ぐ2位のシェアを誇っていたビールのブランドです。シュリッツは、麦芽をコーンシロップに変えるコスト削減を行いました。事前のブラインドテストでは味は変わっていないと証明されていました。しかし、現実には競合がシュリッツは品質を犠牲にしたと喧伝し、実際に消費者も品質の低下を感じたようで、アメリカで最も高い広告枠であるスーパーボウルの広告で品質は戻したとアピールしましたが、市場から消え去ることになりました。

Schlitz's ad
https://www.reddit.com/r/vintageads/comments/axj0pt/dont_worry_darling_you_didnt_burn_the_beer_1950s/

ブランドの資産価値を証明する2つ目の方法は、ブランドバリュエーション、すなわちブランド価値の純資産額を直接推定するやり方です。推定方法は2ステップでシンプルです。まず、対象ブランドの事業部門の将来予想される毎期の収益を現在価値に割り引きます。この見積もり額には、有形資産の価値は含まれていないので、製造スキルや社員、R&D能力、そしてブランドといった無形資産によるものと捉えられます。次に、その無形資産の価値のうち、ブランドが占める割合を見積もり、掛け算します。ご察しの通り、この推定法では、無形資産に占めるブランド価値の割合が恣意的なため、マネジメントに使うには正確さに欠ける数字です。しかし、ブランド構築の予算を練る際の参考にはなります。例えば、あるブランドが5億円の価値を持つのに、予算が500万円なら少なすぎると異議を唱えられます。ブランド価値5億円の地理的分布が、地域Aから4億、地域Bから1億なら、予算を単純に2分割するという戦略に異議を唱えることもできます。Interbrand社による2013年のブランド価値の推計から、アーカーがブランド価値の割合を見積もったところ次の通りだったということです。

  • 10~25%:GE、Accenture, Hyundai...
  • 40~50%:Google, NIKE, Disney...
  • 60%~:Coca-cola, Burberry...

ブランドの資産価値を証明する3つ目の方法は、ブランドエクイティ効果の定量分析で、具体的にはブランドエクイティの変化が株の利益5に与える提供を統計的に計測するやり方です。アーカーは自身の研究で、ブランドエクイティがROIの70%相当の影響を株価に与えることを明らかにしました。つまり、ブランドエクイティが実際に利益を生み出す資産であることを実証した経営学的にも重要な研究結果であり、これは強力な説得材料になるでしょう。ちなみに、広告は株の利益に影響がなかったそうです6

本章のサマリーです。マーケティング観点でブランドは、そのプロダクト7が機能的、情緒的、社会的に役立つという組織から顧客への約束であり、顧客がそのブランドに触れるたびに生まれる体験をもとにして、積み重なり変化していく顧客との動的な関係です。マネジメント観点では、ブランドは戦略的価値のある資産ですが、実際にブランド構築を実行に移すには障害があり、ブランドは資産であるということを説得力を持って宣言することが必要です。

ブランディングとは何か

ブランドについて理解できたことで、ブランディングを理解する準備が整いました。ブランディングとは何でしょうか8。それは、ブランドエクイティを築き、高め、活用することです。上述の通り、ブランドエクイティはブランド認知、ブランド連想、ブランドロイヤルティの3つに分解できますから、それぞれのブランド資産を戦略を持って育て活用していくことで、持続的に大きな利益をもたらす資産としていくことがブランディングなのです。ちなみに、アーカーは中でもブランドロイヤルティを重視しており、セグメントごとのブランドロイヤルティの大きさと密度を強化していくべきだと主張しています。ブランドロイヤリティを最も頑健だと考えているためです。

ブランディングとは、ブランドエクイティを築き、高め、活用すること

ブランディングがどんな行為を意味するのかがわかりました。でも、これだけでは不十分です。ブランディングの目標とする状態は何なのかを説明できる必要があります。アーカーの言葉で結論からお伝えするならば、「ブランディングの目標は、差別化ポイントをマストハブにし、競合をイレレバントにすること」だといえます。これはとても重要でありながら、わかりづらいカタカナ用語で説明されているため解説していきます。

まず、マストハブ(Must Haves)とは、一定規模以上のセグメントが、そのブランドをレレバントだとみなすために不可欠だと認識するブランドの要素のことです。レレバント(relevant )は、「関係性がある」という意の形容詞ですが、ブランディングの文脈では「選択肢である」という意で用いられます。先の説明を言い換えると、マストハブとは一定規模以上のセグメントが、そのブランドを選択肢に入れるために不可欠だと認識するブランドの要素のことなります。イレレバント(irrelevant)は、レレバントの対義語で要は「無関係である」という意味です。

例えば、シャンプー市場におけるあるセグメントは、シャンプーを購入するとき、洗浄力が強すぎないことを必要条件、つまりマストハブとしています。このセグメントにとって、ラウリル硫酸Naやラウレス硫酸Naなどの洗浄力が強すぎることで有名な洗浄成分を含むシャンプーブランドは選択肢から外される、つまりイレレバントになります。

これで上述の「ブランディングの目標は、差別化ポイントをマストハブにし、競合をイレレバントにすること」がある程度は理解できたと思います。アーカーのあげるマストハブの具体例をみて理解を深めましょう。

  • 圧倒的に魅力的なデザイン e.g. Appleの製品群
  • 新技術 e.g. IBMのWatson
  • 特定セグメント向けプロダクト e.g. ルナ(女性向けエナジーバー)
  • 驚くほどの安価 e.g. ジェットブルー航空の実売価格
  • 共通利害 e.g. パンパースビレッジ(乳児の世話の参照サイト)
  • ブランドパーソナリティ e.g. レッドブルの活力
  • 情熱 e.g. ホールフーズマーケットのオーガニックに対する情熱
  • 組織の価値観 e.g. Zappos(顧客中心)、3M(革新性)、Patagonia(環境保護)

ブランディングの目標は、差別化ポイントをマストハブにし、競合をイレレバントにすること

また、マストハブは新しいサブカテゴリーを形成すると説明されています。それが必要条件ということです。サブカテゴリー(sub-category)とは上の例でいえば、コンピュータがオタクっぽいモノだった時代におけるデザインの優れたコンピュータ(Apple)、エナジーバーが男性をターゲットとしていた時代における女性向けのエナジーバー(ルナ)、食品がとりあえず豊富にあるのがスーパーだった時代におけるオーガニックに集中したスーパー(ホールフーズマーケット)などを意味します。つまり、何らかの修飾語とカテゴリー名を組み合わせたものがサブカテゴリーです。

彼らは最初あなたを無視する。次にあざわらう。その次は戦いを挑んでくる。そうすればあなたの勝ちだ。 マハトマ・ガンジー

ご察しの通り、サブカテゴリーをつくるのは容易ではありません。アーカーは、「これほどのイノベーションは滅多に起きないが、起きたときはブランディングにより守らなければならない」、また、「究極の差別化の道は、プロダクトあるいは関連プログラムにおいてイノベーションを起こし、マストハブを生み出すこと」だと言っています9。そして、次のように断言します。

マストハブを生み出し、競合をイレレバントにしたり、その状態に近づけたりすることは、ただ望ましいというだけでなく、成長するためのほぼ唯一の道である。(中略) これは経済学の基本中の基本であり、売上と利益に本物の成長をもたらすチケットである。

アーカーはこの点を繰り返し、繰り返し強調しています。ある研究では、108の企業を調べたところ、新しいカテゴリーを生み出したと分類された企業は全体の14%だったのに対し、利益では全体の61%を占めていたことが明らかになりました10。また別の研究では、2009〜2011年に急成長したアメリカの企業上位100社を分析したところ、カテゴリーを自ら生み出した13社が、その3年間に100社全体で生み出した収益増加分の53%、時価総額増加分の74%を生み出していたことが明らかになりました11

突き詰めれば戦略とは、ブランディングに投資しブランドを築くのか、それとも利益が減り続けるコモディティを管理運営していくのか、どちらを選ぶのかということと言えそうです。

混み続ける一方の市場において、愚か者は価格で勝負する。勝者となるのは、顧客の心に長く残る価値を生み出す方法を見つけた者だ Tom Peters, ベストセラー共同著者『エクセレント・カンパニー』

これはあまりに明確であるにも関わらず、あまりにも多くの企業がこの道を選ばずに、ブランド選好競争と呼べる戦略を採用しているとアーカーは注意しています。ブランド選好競争は、上述のコモディティを管理運営していくことですが、「あるサブカテゴリーにおいて顧客の選択肢に入るブランドの中で、なるべく自社ブランドが選好されることを重視する戦略」と説明されています。この戦略の目標は、競合に勝つために、自社ブランドを今まで以上により魅力的に、あるいは安価にしていくことです。スローガンは「より早く、より安く、より良く」。要は、ある評価基準のレーンの中で競合と競争することを選ぶということです12

問題は「そのブランドよりうちのブランドの方がいいですよ」式のマーケティングでは、市場は変化しないことだとアーカーは指摘します13。意味のある変化が市場構造に起きる唯一のケースは、マストハブが市場に投入されたときであり、例えば、日本のビール業界は、過去40年間で変化があったのは次のわずか4回だとしています。

  • 1968:アサヒスーパードライ
  • 1990:キリン一番搾り
  • 1995:アサヒのドライ、キリンのラガーの2つのサブカテゴリーのポジショニング変更14
  • 1990年代後半:キリンの発泡酒ブランド

本章のサマリーです。ブランディングとは、ブランドエクイティを築き、高め、活用することです。そしてブランディングの目標は、差別化ポイントをマストハブにし、競合をイレレバントにすることです。マストハブを生み出し競合をイレレバントにすることは、成長するためのほぼ唯一の道です。持続することを経営の目的とする限り、論理的にブランディングに投資しない判断はできないはずです。滅びの道である競争に甘んじていてはいけません。しかし、ブランディングは魔法の杖ではありません。嘘はすぐに見破られます。常に新たなサブカテゴリーを模索し検証し続け、イノベーションを生み出すことが求められます。イノベーションを生み出したら、ブランディングに投資し、それをマストハブとすべきです。

ブランド連想とはなにか

ブランディングの実践を始めるために、あと1つ理解しておくべきものがブランド連想(brand associations)です。上述のブランドとは何かの中でブランドエクイティの構成要素の1つして登場しました。ブランド連想とは、何であれ顧客にそのブランドを連想させるものです。アーカーの挙げる例を見てみましょう。

  • 製品特性(VOLVO)
  • デザイン(Apple)
  • 社会貢献活動(Patagonia)
  • 品質(レクサス、サウスウェスト航空)
  • 国際的(VISA)
  • イノベーション(3M)
  • システムソリューション(Salesforce)
  • ブランドパーソナリティ(Metlife)
  • 象徴(マクドナルドのゴールデンアーチ)

ブランド連想は、顧客関係、購入決定、使用経験、ブランドロイヤリティの基盤になり得るため、あるブランドにどのような連想を持たせるのかを決め、その連想を強化するような計画を練り、ブランドへしっかりと結びつける仕事は、ブランドマネジメントにおいて最も重要な仕事の1つだとアーカーは言います。

以上だけでもブランド連想についてかなり理解できたと思いますが、有効なブランディングを実践するためにブランド連想に対する解像度を上げていきましょう。アーカーはブランド連想を様々な観点で分類していますが、ここからは筆者の解釈を前面に押し出してシンプルにご紹介していきます。

ブランド連想ピラミッド
ブランド連想ピラミッド

まずは、組織連想です。組織連想とは、組織の価値観や制度など文化に由来するブランド連想のことです。プロダクトは遅かれ早かれ競合に真似されますが、組織のメンバーや文化、伝統的活動、資産、能力は真似できません。そのため、プロダクトの特徴ではなく、自社組織をもとにした差別化ポイントや顧客関係基盤は耐久力があり競合への抵抗力を持つと言えます。また、組織連想は後述の便益連想をサポートする土台とも言えます。組織連想には大きく2つの機能があります。

1つ目は、”価値提案(value proposition)を支援する”という機能です。例えば、「レクサスは最高の品質を持つ」という主張を人々が信じる理由は、レクサスを生み出した組織が品質第一の価値観を持っているということを人々が信じているためだとアーカーは説明します。

性能で上を行くライバルはほとんどの場合存在するし、1番だとしてもそれを信じない顧客は常に存在する。数値化できない次元で強みを持てば、より持続する競争優位を得られる

実際、企業が今までの守備範囲を超える新製品を出したときに、顧客がそれを受け入れるかどうかの判断に企業イメージが与える影響について実験では、”革新的”というイメージがあれば非常に有効に働くことがわかったと報告されています15

組織連想の2つ目の機能は、”大いなる目標を生み出す”というものです16。大いなる目標は顧客関係の基盤となり「うちのブランドの方があのブランドより上」というような競争や誹謗中傷からも解放してくれ、社員に満足感ももたらすとアーカーは言います。

例えば、クレヨンメーカーのクレオラの目標は「親と教師が子供に刺激を与え、創造力のある子に育てるための手助けをすること」です。TANITAの目標は「人々がよりよい食事で健康増進するのを助けること」で、この目標を具現化したのが健康食で有名な社員食堂と、日本の家庭の10%で使われている料理本です。Doveは「少女や成人女性を本当の美しさと自尊心の構築に導く」が目標ですし、「非常識なほどすごいプロダクトを生み出す」のがAppleの夢です。

大いなる目標に心を動かされた顧客は、その目標を一緒に支える仲間の一員になりたいと願うようになり、顧客からファンになります。例えばMUJIを愛好するファンは、シンプルで控えめ、謙虚で自制心があり、落ち着いていて自然な雰囲気を生み出すビジョンに惹かれていると説明されています17。さらに、ブランドを好きになった顧客は、よい情報であれ悪い情報であれ、それまでと違うやり方で遮断したり解釈したりするようになるとアーカーは指摘しています。

目標を最優先する企業は巨大な競争優位を得る。社員と顧客は目標に飢えているからだ Rich Karlgaard

組織連想の元となるのは組織の価値観、すなわち、組織にとって何が重要なのか、組織の核にあるのはなにか、に対する答えです。アーカーは代表的な組織の価値観として7つを挙げています。

  • 品質重視
  • イノベーション
  • 顧客への配慮
  • 成功実績や企業規模(歴史)
  • 地元回帰
  • 環境保護活動
  • 社会貢献活動

組織の価値観は言葉だけでは連想にはなりえません。組織の価値観を連想に変える1つの方法は、組織の価値観を体現するプロダクトを生み出すことです。代表的なプロダクトとしてはプリウスが挙げられています。組織の価値観を連想に変える2つ目の方法は、組織の価値観を体現するプログラムを継続することです。Patagoniaは、衣料のReduce, Repair, Reuse, Recycle, Reimagineを通して、衣料による環境負荷の最小化を目指すプログラム「コモンスレッズ・イニシアティブ(Common Threads Initiatve)」を行っている他、New York Timesに1つのジャケットをつくるのに非常に多くの水とエネルギーが使われるため、同社の人気ジャケットを1つ買い控えるように訴える広告を出したことがあります。

続いてのブランド連想は便益連想です。便益連想は、理性的便益連想本能的便益連想の2つに大別できます18

便益連想の構造
便益連想の構造

まずアーカーは、本能的便益連想が理性的便益連想より重要であるとしています。顧客が、その機能的便益がブランドを買うべき理由になるとは説得されなかったり、ある機能的便益についてはどのブランドでも十分だと思っていたり、どのような機能的優位性であれ競合他社が真似をするであろうことなどから機能的便益に基づく戦略は役立たないことが多いというのが理由です。

しかしながら、多くのブランドが製品属性とその機能的便益だけを過度に重視してしまう、製品属性に執着する罠にハマっていると注意しています。その罠の背景には、顧客を合理的存在とする仮定があるわけですが、厄介な原因として、顧客になぜこのブランドを買ってあのブランドを買わなかったのかと聞けば、顧客は答えとして機能的便益を挙げることがあります。顧客の欲求を探らずに表面的な言葉だけを鵜呑みにすると間違ったブランディングを行うことにつながるというわけです。

アーカーは、行動経済学が明らかにしている通り、顧客を合理的な個人とする見方は便利だがたいてい間違っていると指摘します。顧客自身は、”かっこいいデザイン”や”運転が楽しい”、”パワフルな感じ”といった飾りのような点が自分にとって本当は重要であるとは気づかない、あるいは認めないことが多いだけというわけです。

したがって、ブランディングでは機能的便益を超えた組織連想や、情緒的便益、自己表現便益、社会的便益の本能的便益連想、そして後述するブランドパーソナリティなどが顧客の頭の中に形成されるような体験をデザインすることが重要になります。本能的便益連想について順に紹介します。

情緒的便益とは、そのブランドの購入者または使用者が、購入プロセスまたは使用経験において何かを感じるようにさせる能力に関するブランド連想のことです。例えば、ある顧客はポルシェを運転するときに興奮を感じ、リーバイスを身に着けたときはタフになった気分になるかもしれないとアーカーは言います。ある実験では、シャンプーの機能的便益「豊かでボリューム満点の髪になります」に情緒的便益「見た目も気分も最高になります」を付け加えると訴求力が増すことが確認されました19。追跡調査した結果、情緒的便益を含んだ47本のテレビCMは、機能的便益しか訴えていない121本のテレビCMよりも高い有効性スコア20を得たという報告もなされています。情緒的便益は、エプロンを着けることで自分はグルメの料理人であると感じるというように、プロダクトを使う行為によって生まれることが多いとアーカーは指摘しています。

続いては自己表現便益です。人間は、自分自身もしくは理想的な自己イメージをさまざまな方法で表現します。特定のブランドを愛好し、憧れ、話題にし、購入し、使うこともまた、実際の自分や理想化された自己イメージを表現するための手段となります。ZARAの服を買うことで格好良くなれるし、LEXUSに乗ることで成功者にもなれます。Appleを使えばクリエイティブになれるし、Yale大学に通えば賢い人になり、Banksyの絵を所有すればアバンギャルドな人になれます。自己表現便益をもたらすことは、人を引きつけるブランドであることの本質だとアーカーは言います。それから、人はみなそれぞれ複数の役割を持っています。ある女性は妻であると同時に弁護士であり、母であり、テニス愛好家であり、音楽マニアであり、ハイカーかもしれません。1人の人間でも、それぞれの役割ごとに自己イメージを持ち、それら複数の自己イメージをそれぞれ表現したいというニーズを持っています。自己表現便益は、準備万端に整えられた食事を見ることで誇りと満足を覚えるというように、プロダクトを使った結果が重要であることが多いとアーカーは指摘しています。

本能的便益連想の最後は社会的便益です。エーリッヒ・フロム(Erich Fromm)がナチス政権下のドイツ国民の心理を『自由からの逃走』として説明したように、孤独から逃れようとする心理は人間の最も根源的な欲求の1つです。したがって、人を社会的集団に所属させるブランド連想である社会的便益は強力です21。例えば、スターバックスを利用する人は、「私がスターバックスに行くとき、私はコーヒーとカフェをこよなく愛する”会員制クラブ”のメンバーである」と表明しているのではないだろうか、とアーカーは説明しています。

本能的便益連想をつかった成功例としてアーカーが挙げているのは、過去100年間で最高のコピーとされているジョン・ケープルズ(John Caples)による次の広告です。

They Laughed When I Sat Down At The Piano — But When I Started To Play!
https://www.businessinsider.com/they-laughed-when-i-sat-down-at-the-piano-but-when-i-began-to-play-2013-12

この新聞広告は、ピアノの通信講座に人々を勧誘するのが目的でつくられ、多くの顧客を呼び込み、”広告マンからだけでなく”大きなビジネス成果をもたらしたそうです。この広告では、講座に関することやピアノを学ぶプロセスについてはほとんど何も触れられていません22。注目すべきは説得と伝達のツボは機能的便益ではなく、情緒的便益(逆境の中で素晴らしい演奏をしたことに感動する)、自己表現便益(主人公が努力を表現し、嘲笑した人を見返せる)、社会的便益(尊敬されるメンバーとなった)であるとと教えてくれていることだとアーカーは指摘しています。このように本能的便益連想は、複数を組み合わせることでより有効となります。

アーカーによれば、これら本能的便益の見つけ方の1つは、最もロイヤリティの高い顧客の経験に注目することで、ほぼ間違いなく彼らは機能的便益を超える体験をしているとのことです。筆者のロイヤリティの高いブランドを思い浮かべると、Appleのプロダクトを使うことで自分の活動が洗練されているような感覚を持っているように思いますし、The North Faceのプロダクトを身に着けることで自分はどこにでもアクティブに行ける冒険心ある人間の仲間になったような感じを覚えているような気がします。

最後にご紹介するブランド連想はブランドパーソナリティとアーカーが呼ぶものです。人はペットから植物、ブランドまであらゆるものを擬人化します。ブランドパーソナリティは、そのブランドから連想される人間的な特徴を持つブランド連想と説明されます23。そして、ブランドパーソナリティを持つブランドは、著しい優位性を得ているとアーカーは指摘します。また、社内向けブランディングにおいてブランドパーソナリティの記述は、奥行きと手触りを与え、情報伝達の取り組みが、戦略的に的外れとなる蓋然性を減らすともされています。アーカーの挙げる具体例をみてみましょう。

  • メットライフ: スヌーピーのキャラクターを使うことで、保険会社として官僚的で利益優先、人間味に欠けると思わせることなく、思いやりがあり優しく温かいという側面に命を吹き込めた
  • McKinsey & Company: 尊敬できる教師
  • ハーレーダビッドソン: マッチョでアメリカを愛し、自由を求め、社会規範からの逸脱を厭わない人
  • Patagonia: アウトドア活動の熱心な参加者兼擁護者でもある環境活動家

ブランドパーソナリティは自然発生的にも生じるでしょうが、あるソフトウェアのコピーを「事務作業を1秒で終わらせる秘書」としたり、動画広告でプロダクトを俳優が擬人的に演じるなど、積極的に擬人化というメタファーをつかったコミュニケーションを重ねていくことでより確実につくれるでしょう。

本章のサマリーです。ブランド連想とは、ブランドエクイティの構成要素の1つで、顧客にそのブランドを連想させるものをいいます。あるブランドにどのような連想を持たせるのかを決め、その連想を強化するような計画を練り、ブランドへしっかりと結びつける仕事は、ブランドマネジメントにおいてとても重要な仕事です。ブランド連想は、組織連想、便益連想、擬人連想の3つの次元に分けられます。組織連想は共感を生む、便益連想を支える、競合が真似できないという理由から重要です。便益連想では、理性的な機能的便益よりも、本能的な情緒的便益や自己表現便益、社会的便益が効果が大きく重要です。擬人化されるブランドは優位性を持つことから、組織連想や便益連想を積極的に擬人化したコミュニケーションを行うことでブランドをより強くできます。

本記事では『ブランド論(Aaker on Branding)2014』からブランディングの基礎にあたる部分を理論編としてご紹介しました。次回はいよいよブランディングの実践についてご紹介します。


  1. このブランド資産という概念が受け入れられたのには、コスト削減が逓減期になっており経営に対するインパクトが小さくなっていたことと、ブランドマーケティングの役目は販売促進という思い込みから価格が最大の購入決定要因になってしまい多くの企業が行き詰まっていたという背景があります。また当時は企業の成長戦略としてM&Aが台頭した時代で、見えないブランド価値を見抜いて安く買い高く売ったウォール街の金融マンが活躍し、そこから会計上の無形資産としてブランドを扱おうという考えが広まったとされています。

  2. 筆者は本書を初めて読んだとき、ブランドロイヤルティはブランド認知とブランド連想から成る結果なのではないかと疑いましたが、What Is Brand Equity?によれば同じ主張をしている人々はいるようです。しかしアーカーは、消費者があるブランドを買うときに、そのブランドへのロイヤルティは最も大きな要因なのだからブランドエクイティに含めるべきだと主張しています。

  3. 省略したのは、事業戦略の概念モデルという方法ですが、これについての本書の説明は不十分で応用し難いと感じたため省きました。ご覧になりたい方は本書の33ページをご確認ください。

  4. しかし、中小企業であればこれら大企業の例では納得してくれないかもしれません。あるマーケットにおける力学は相似形なので、規模の大小に関わらずケーススタディは応用できます、と伝えて理解してもらえるなら良いですが、現実的には似た規模の会社でブランディングにより成長している例を探す必要がありそうです。

  5. 株価と配当。資産が生み出す利益の究極の尺度

  6. 広告の効果がブランドエクイティに反映された場合は例外だそうです。当然ですね。

  7. 本記事では英語の慣習にならい、製品・サービスと呼称される概念をプロダクトと呼ぶことにします。

  8. 実はアーカーは本書の中でブランディングを明確に定義しているわけではないのですが、「ブランド構築」という訳語はブランディングと同義と考えて良いと筆者は解釈しています。

  9. ブランディングは虚構を生み出して消費者を操り、騙して売上を伸ばす戦術という見方もあるかもしれませんが、今ではほとんどのプロダクトのカスタマージャーニーの前半にあるレビュー調査のために、実現できていないことを訴求してもすぐに嘘だというレビューが書かれ買われなくなります。そして、そのプロダクトのブランドや、最悪、コーポレートブランドまで毀損するリスクがあります。つまり、アーカーが暗に示しているようにブランディングも魔法の杖ではなく、その前にイノベーションが無ければどうしようもないというのがブランディングの限界なのだと思います。ただし、既存ブランドのコンセプト、あるいはポジショニングをマストハブとなるように再定義、あるいは新規ブランドのコンセプトをデザインするプロセスもブランディングに含めるならばその限りではありません。

  10. W. Chan Kim and Renee Mauborgne『ブルーオーシャン戦略』ダイヤモンド社(2013)

  11. Eddie Yoon and Linda Defien, “Why it pays to be a category creator”, Harvard Business Review (2013), 21-23

  12. Peter Thielは『ZERO to ONE』の中で競争はイデオロギーだとまで言っています

  13. 市場が変化しないということは、広告予算勝負になるということで、苦しくなり続ける道を歩むことを意味するということだと筆者は解釈しています。

  14. これについて本書で具体的に示されていないのですが、キリンが「ラガー生化」にポジショニングを変更し、アサヒが「新鮮(フレッシュ)」にポジショニングを変更したようです。富田純一、高井紘一郎、神前紀彦『アサヒビールの競争力の源泉』MMRC Discussin Paper(2008), 221, 12-13

  15. K L KellerD A Aaker, The Impact of Corporate Marketing on a Company's Brand Extensions, Corporate Reputation Review (1998)

  16. 大いなる目標が組織連想を生み出すというのが自然な因果関係にも思えますが、リーンスタートアップをはじめ、目標ドリブンで始まる事業は少ないということが背景にあるのかもしれません。

  17. より愛好度の高いセグメントは、MUJIの消費主義に対するアンチテーゼという態度あるいは社会的活動のメンバーになりたいという動機があるでしょう。

  18. 便益連想、理性的便益連想、本能的便益連想のいずれも筆者の造語であり、アーカーの言葉ではありません。

  19. Stuart Agres, Emotion in Advertising, 1990

  20. CMの学術的研究で標準的な手法

  21. 個人的には、自己表現の本質を、ある社会集団に所属することと解釈して、自己表現便益と社会的便益をまとめてしまってもいいように思います。

  22. ボディーコピー:http://www.sales-and-marketing-for-you.com/support-files/john_caples_ad.pdf

  23. ブランドパーソナリティは、意図的に伝えるにしろ伝えないにしろ、組織連想や便益連想の総合的な結果、1つの表象として現れるものだと筆者は解釈しています。したがって、すべてのブランド連想は、擬人化された擬人化連想(ブランドパーソナリティ)と、されていない非擬人化連想の2種類に分けられます。上述の図では、便宜上、擬人化連想と非擬人化連想をまとめて擬人連想としました。

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KANTA YAMAGATA

Creative Director, Cantas

山形 敢太。1992年生まれ。コンセプト・戦略・UX・UIのデザインから、フロントエンドエンジニアリングまでを担当。CyberAgentにてAbemaTVのデータサイエンス兼マーケティング担当。イノベーションコンサルティングファームi.labにて、業界大手の新規事業立案案件やブランディング案件に従事。

KANTA YAMAGATA

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